犬のフィラリア症とは – 命を脅かす見えない寄生虫の脅威 –

パートナーを迎えてからの暮らし

こんにちは!

静岡県浜松市にあるミニチュアシュナウザー専門の犬舎、ESTRELLA(エストレージャ)の内山です。

愛犬と健康で幸せな毎日を送るためには、「予防医療」がとても大切です。

その中でも特に注意すべき感染症が「フィラリア症(犬糸状虫症いぬ しじょう ちゅう しょう)」です。

これは蚊を媒介として感染する寄生虫の病気で、犬の心臓や肺動脈に寄生し、放置すれば命を奪うほど重篤な疾患です。

今回は、このフィラリア症の原因、感染の仕組み、発症後の影響、そして国内外の感染状況について、詳しく解説いたします。

フィラリア症の原因とは?

フィラリア症は、「犬糸状虫いぬ しじょう ちゅう(Dirofilaria immitis)」という寄生虫が原因で発症します。

この虫は、成虫になると15〜30cmにもなる細長い糸のような形をしており、犬の心臓(特に右心室)や肺動脈に寄生します。

この寄生虫は犬の体内で繁殖し、血液中に幼虫(ミクロフィラリア)をばらまきます。

しかし、犬から犬へ直接感染するのではなく、「蚊」が媒介することで感染が広がります。

感染のメカニズム – 蚊はどのようにフィラリアを媒介するのか? –

フィラリアの感染プロセスは複雑で、以下のステップで進行します。

  1. 感染犬の血を吸った蚊に、ミクロフィラリアが取り込まれる。
    • フィラリア成虫が寄生している犬の血液中には、幼虫(ミクロフィラリア)が存在します。蚊がこの血を吸うことで、体内にミクロフィラリアが入り込みます。
  2. 蚊の体内でミクロフィラリアが変態・成長する。
    • 蚊の体内で、ミクロフィラリアは約10~14日をかけて「感染能力を持った幼虫(第3期幼虫)」へと成長します。この間、気温が13℃以上でないと発育が進まないため、日本では主に春〜秋にかけての感染が多くなります。
  3. 感染幼虫が蚊の口器に移動し、次に刺された犬に侵入する。
    • 感染能力を持った幼虫が蚊の口の部分に移動し、別の犬を吸血する際に皮膚を通じて体内に侵入します。
  4. 犬の体内で成長し、心臓・肺動脈に寄生する。
    • 犬の皮下や筋肉内で数週間かけて成長し、血流に乗って心臓や肺動脈へ移動。約6~7ヶ月後に成虫となって寄生を始めます。

感染した場合に起こる症状と影響

フィラリアの症状は感染数や犬の体質・年齢によって異なりますが、進行すればするほど重症化し、最終的には死に至ることもあります。

初期症状(無症状~軽度)

  • 無症状(初期はほとんど変化が見られない)
  • 軽い咳
  • 軽い運動不耐性(あまり走りたがらない、疲れやすい)

中等度の症状

  • 激しい咳
  • 息切れや呼吸困難
  • 運動を嫌がる
  • 食欲不振、体重減少
  • 元気がない

重度の症状・末期

  • 胸水や腹水がたまり、お腹が膨れる。
  • チアノーゼ(舌や歯茎が青紫になる)
  • 貧血、黄疸
  • 失神・ふらつき
  • 「大静脈症候群(Vena Cava Syndrome)」という急性の循環不全によるショック死
  • 突然の虚脱、尿の赤変(血尿)、数時間以内に死に至ることもあります。

フィラリア症の診断と治療

■ 診断

  • 抗原検査(血液検査):犬の血中に成虫の抗原が存在するかを確認します。
  • ミクロフィラリア検査:血液を顕微鏡で観察して、幼虫の有無を確認。
  • レントゲンや心エコー:重症例では心臓や肺の状態を確認するために実施。

■ 治療

  • 成虫の駆除:専用の駆虫薬を使用。ただし、急激に虫が死ぬとショック症状を引き起こすため注意が必要。
  • ミクロフィラリアの除去:別の薬剤を使って段階的に駆除。
  • 外科的処置:重度の感染では、心臓内から寄生虫を取り出す手術が行われることもあります。
  • 支持療法:心臓や肺への負担を軽減する薬(強心薬、利尿薬など)を併用。

※治療は長期に渡り、リスクや費用も大きいため、「感染させない=予防する」ことが最重要です。

フィラリアの感染状況

日本

かつて日本ではフィラリア症が非常に多く、1950年代〜80年代には都市部でも一般的な病気でした。

しかし、予防薬の普及により大幅に減少しました。

現在では以下のような傾向があります。

  • 2023年の日本獣医師会のデータでは、全国での感染率は平均0.5〜2%程度と報告。
  • ただし、地域差が非常に大きく、九州・四国・関西・東海などの温暖地域では感染率が5〜10%以上に上る地域もあります。
  • 農村部や野犬の多い地域ではいまだ高リスク。

また、予防をしていない保護犬や野犬には高確率で感染が確認されており、これが媒介蚊を通じて周囲の犬に広がるリスクを持ちます。

海外

フィラリア症は、世界的に見ても広く分布している寄生虫疾患です。

特に以下の地域で注意が必要です。

地域感染状況
アメリカ合衆国南部を中心に非常に感染率が高く、特にテキサス・フロリダ・ルイジアナなどでは20〜30%超の報告例も。
全米で数百万頭の犬が感染しているとされる。
アジア(日本を含む)日本・中国・台湾・タイ・インドなどの温暖地に広く分布。
タイやベトナムでは野犬を中心に高い感染率。
ヨーロッパイタリア、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国で感染が見られ、近年では温暖化により北上傾向も。
ドイツやフランス南部でも報告がある。
オーストラリア一部熱帯地域(クイーンズランドなど)で確認されている。

旅行や引っ越し、海外から犬を迎える場合には、その地域の感染状況に応じた検査や予防が重要となります。

まとめ

フィラリア症は、予防さえすれば防げるが、一度感染すると命に関わる重大な病気です。

感染源である蚊はどこにでも存在しており、完全に避けることは不可能です。

だからこそ、正しい知識を持ち、愛犬を守るための対策をしっかりと行うことが求められます。

この病気についての理解が深まれば、愛犬との生活においてのリスクを大きく減らすことができます。